黒部川 下ノ廊下
2007年10月22・23日(月) 所要時間9時間0分 費用発生:41,000円
前日2033・・・2228松本(泊)602・・・701信濃大町710=745扇沢800=815黒部ダムー925内蔵助谷935−1150別山谷出合−1220白竜峡−1311十字峡1330−1505仙人ダム−1600阿曽原温泉(泊)626−750折尾谷−859志合谷−1050欅平1104・・・1219宇奈月1318・・・魚津1409・・・1552越後湯沢1602・・・1700大宮・・・武蔵浦和・・西国分寺・・1805立川
下の廊下は憧れだった。子供の頃図書館で読んだ北アルプスガイドに魅せられて、十字峡や白竜峡などの峡谷の美しさ、がけっぷちスレスレをゆくコース。いつかは行ってみたいと思っていたが、正直に言ってびびっていたのと、もう少し経験を積んでからという思いがあってそれから十余年先送りとなっていた。そして百名山踏破を果たし、自分で言うのもなんだがある程度の経験を積んだと思ったので、いよいよ積年の憧れである下の廊下をやろうかと考えた。幸い10月下旬に2連休を確保した。天気予報も好天。しかし私はびびった。前日まで迷いに迷った。いかに諸国名山を歩いた私といえども、岩や鎖は大の苦手というのは剣岳や乾徳山で実証済みである。人には向き不向きというものがある。そんなところに大枚を投じて行くのもいかがなものか・・・これは正常な考えである。しかし、憧れがすべてその躊躇、逡巡を押し切った。やるとしたら今しかない。オレは下の廊下をやるんだ。決断してすぐ松本駅前のビジネスホテルを押さえた。
実力相応のそこそこの山、東京近辺の2000m級に登ってうーん自然はええなあというのも山登りである。しかし困難なところや長年行ってみたかったところへいよいよ行く時は胸が高鳴る。前日、仕事が手につかず、終業時間が気になって仕方がない山行というのがもっとも面白い。あと2時間、あと1時間、会社がはねるや家へ取って返してすばやく荷物をパッキングし、八王子へ戻ってスーパーで菓子パン9個を買ってから20時33分の特急「スーパーあずさ33号」に乗る。笹子トンネルを抜けて甲府盆地に入ってさらに西へ進んで小淵沢。諏訪盆地に入って茅野上諏訪岡谷と停車し、塩嶺トンネルを抜けると松本盆地に入る。駅前に出るや寒さを感じる。松本駅前の温度計は7度をさしていた。ビジネスホテルに投宿。急行アルプスがなくなったせいで秋の平日に信州の山行をやろうとすると前泊せねばならず1万円弱の追加出費を強いられる。
翌日は6時1分の信濃大町行きに乗る。新雪に輝く燕岳や常念岳などをながめつつ列車は北へ進み、7時1分信濃大町着。扇沢行の観光バスに乗り換える。車内でうとうととまどろみ、立山黒部アルペンルートの扇沢着。トロリーバス乗り場には早くも団体客が鈴なり。トロリーバスを4台連ねて黒部ダムへ。針の木トンネルを抜けて黒部ダム駅に着いた。観光客はダム湖方面へ向かうが、私だけそのままトンネルを進み、「登山者出口 内蔵助谷方面」の出口からトンネルを出る。そこから道なりに登山道をガッと下り、ダム堤体の下に出る。木でできた橋で左岸に渡り、しばらくは川沿いのなんでもない道が続く。流れのたもとでコンビニ弁当の朝食。
1時間ほど歩いて内蔵助平方面の道を分けて、内蔵助沢を丸太橋で渡る。ここからも何の危険もない沢沿いの歩きがえんえん続く。どのあたりで本やネットに出てきたヤバい区間にさしかかるのだろうか。じらされているようでかえって先が思いやられる。鳴沢小沢のあたりからだんだん左手の山が絶壁っぽくなってきたが、足元はしっかりしているので、足元さえ見て歩けば何の問題もない。だがー
新越沢出合いあたりから若干シビアな箇所が出てきた。がけっぷちにつけられた丸太伝いに歩くこともあり、一歩足を踏み外したら終わりだという思いが強くなってきた。思わず左側に張られた針金をつかんでしまう。道幅が60センチくらいなら耐えられるが、時折30cm程度のステップ程度となると正直怖い。足の置き所をきっちり確認しながら進む。そういう状況下、1箇所だけハシゴで高巻く箇所まで出てくる。かんべんしてくれと思いながらはしごのアップダウンをこらえる。気の抜けない道が続き、別山谷出合。こんな道がえんえん続くと精神的に参ってしまう。集中力が続かない。
これが下の廊下です。
別山谷を渡ったあと(今年は雪がなかった、ラッキーだと思う)は2mほどのアングル(鉄のくい)伝いの登攀があってなおへつり気味の水平歩道が続く。9割は平常心さえ保てば何てことのない区間だが、随所に緊張を強いられる足場の細いポイントがある。が、やばいところは白竜峡で終わりを告げ、そのあとは高巻きながらある程度歩幅のしっかりした道となった。下ノ廊下で怖いのは新越沢から白竜峡までの1時間くらい。あとは気合でなんとかなると感じた。眼下の透き通ったエメラルドグリーンの流れを眺めながら進み、ようやく十字峡に到着。登山道を2分ほど下ったところに十字峡のビューポイントがあるのでそこまで降りてみる。左から剣沢、右から棒小屋沢が黒部川に流れ込み十字型の峡谷をつくっている。
おにぎりの昼食を済ませ出発。まず吊橋を渡って高巻き道が続く。左手から水がシャワー状に落ちている中を進むところもあり、すぱっと通り抜けたが少し濡れてしまった。しばらく高まき道を進んで、半月峡を通過。ほどなく右側に黒部川地下発電所の建物が見えてきた。そのあと高まき道が終わり、東谷吊橋へ一気に下る。おりきったところが東谷吊橋。けっこう長い吊橋を対岸へ渡るが。さほど怖さは感じなかった。そのあと1キロほどの車が通れるほどの幅のダート道歩き。巻き出しの中を経てトンネルを通過。そのあと眼前に仙人ダムが見えてきた。仙人ダムの上を渡り終えた後、道標に従いダム管理棟の建物に入る。こんなところに大きい建造物があるのも奇異に感じる。
しばらくトンネルを進み、「電車に注意」の看板を見かけ、関西電力黒部専用鉄道のレールの上を横切る。トンネルの彼方から熱気が伝わってきてメガネが曇る。これが噂の高熱隧道か。そのあとも少しトンネル伝いに進み、「この先は関西電力の社員寮です、登山者の方は横の鉄扉を開けて進んでください」という案内に従い表に出る。社員寮の建物横を通って、しばらく進むと阿曽原峠への登り。20分ほど苦しいのぼりをこらえ、水平歩道を進んで1箇所短い素掘りのトンネルをくぐる。そのあと阿曽原温泉小屋への下り。16時頃阿曽原温泉小屋に到着。
阿曽原温泉小屋はウイークデーなのに中高年登山者で混んでいた。仮設露天風呂に漬かったあと、18時からの夕食。まあまあの味のカレーライス。おかわり自由だがきょうは混んでいて4回戦まであるため食事時間は30分。そして混雑のため1つの布団を2人で共用するパターン。それでも下の廊下で精神的に疲れていたせいか、そこそこ眠れた。翌朝6時からの朝食後、欅平へ出発。まず阿曽原谷を木の橋で渡った後、けっこうな登り。登りきったあとで水平道が延々と続く。昨日ほどがけっぷちスレスレではなく、道幅も広いのだが、谷底との落差は今日のほうがあり、道の狭いところや木の桟道でできた部分では緊張する。
1時間ほどで折尾谷を渡る。大滝のある谷を渡った後折尾谷を堰堤につけられた短いトンネルで抜ける。そのあとも高巻きの水平道が続く。大太鼓のあたりでは完全に岩をくりぬいて道が作られており、木の桟道で通過する部分もあったりして緊張した。誤って転落したら一巻の終わりである。そのあと志合谷を大きく迂回する。大きく荒れた志合谷、水平歩道はなんと谷の下をトンネルで通過している。毎年補修するくらいならトンネルを掘ってしまえということか。このトンネル。谷の右岸側と左岸側を結んでおりカーブが続く上に距離も長く、ヘッドランプなしには歩けない。水が滴り落ちる素掘りのトンネルを頭をぶつけないように歩く。怖さを感じたので大声で演歌を歌いながらトンネルを歩く。抜けるのに6分もかかった。
なお水平道が続くが、ここまで来れば気を抜きさえしなければ危険な箇所はない。スタスタ歩き、だんだん欅平駅のアナウンスやトロッコ列車の汽笛が聞こえるようになって、志合谷から1時間少々で欅平上部の鉄塔に出た。あとは急峻な下りを30分ほどしのげば良かった。10時50分ころ欅平に降り立つ。大観光地なのでいきなり喧騒が戻ってきて戸惑う。11時4分の宇奈月行きトロッコ列車で退散。電気機関車2両がトロッコを牽引しており、なんと13両もつないでいる。トロッコ列車は風を切って走り、外気が当たって寒さを感じる。トンネル内ではかなり冷たく感じた。鐘釣から団体客がさらに乗り込んでトロッコは満員となった。一度は乗ってみたかったトロッコ列車だったが、その前に黒部川下の廊下の凄いところを歩いてきたせいか、沿線の景観は平凡に感じた。一時間少しトロッコ列車に揺られて宇奈月に到着。駅前の資料館で黒部川電源開発の歴史を見たあと、13時18分の富山地鉄の電車で魚津へ向かう。
富山平野に入って、14時少し前に魚津に到着。「ますのすし」を買ってから、特急「はくたか13号」に乗り換えて越後湯沢へ向かい、新幹線で帰京した。
(この下の廊下コース、あくまで私の主観ですが、95パーセントはしっかりした登山道で道幅も確保されており技術的には何の問題もなく通過できますが、やばいのは@鳴沢小沢〜白竜峡間はがけっぷちスレスレで足場も覚束ないところが続き、恐怖にのまれやすいところだと思います。A年によって登山道の状況が続き、残雪の具合によっては難易度が大幅アップしますので事前の情報収集が欠かせません Bコケたら「死」ですので、丸木がすべる危険がでてくる雨天時は回避したほうが良いと思います。従いまして初心者の単独行は避けたほうが無難です。山でコケない技術にそれなりの自信がある人のみに許されたコースでしょう)