7 甲武信岳(never die mix)

(言うまでもなく登山記録のページは登った当時に執筆した元原稿があり、それをページ上に若干の修正を加えて載せているのであるが、作っているほうはキーパンチャーと同じで面白くない。そこで特に思い入れのある山は、別バージョン扱いで載せる事にする。)

 1993年5月1ー2日(土・日

020新宿・・・448小淵沢628・・・信濃川上710=梓山740−835毛木平ー1010ナメ滝ー1135水源地ー1205主脈1330−1350甲武信岳ー1405甲武信小屋(泊)700−木賊山720−1000ヌク沢ー1040西沢渓谷=山梨市

 この山はホント、死ぬかと思った。

 5月の連休、標高2400の甲武信岳に雪はあるでしょうか。私は「ない」と読んでしまったのだ。瑞垣も雲取も面白かったから次は甲武信だーと考えた私が愚かだった。しかも体にこたえる夜行利用。あくびをしながら小海線の信濃川上駅から梓山行きの川上村営バスに乗りこんだんですよ。

レタス畑がきれいだった。本当の農業を見た気がした。

 そんなこんなで千曲川ぞいの道を歩き始めましてね、清流のそばの歩きは気持ちいいなーと思ってたのは最初のうちでねぇ、三十分も歩いたらもう雪が現れやがった。日陰では凍っていて危ないんだ。ああ、ヤバイことしたかななんて思ったよ。なんせこっちはズボンに運動靴だっての。

 そうこうしてるうちに千曲川が細くなって細い沢みたいになって、もっと行くと苔の中をチョロチョロ流れるようになってさ、感動の源流シーン、日本一の信濃川の最初の雫だなんていう所ですよ。だけど道が日陰に入ってさあ、白一色の雪原。積雪は50センチくらいになって、足跡を踏み外すと、

ズボーーッ 

と太もものあたりまでのめりこんじゃってもう大変なんだ。残雪の量を完璧に読み違えた。さらに登山口から山見たときは白一色とは予想しなかったね、だって森見て、山を見ずで、森には雪は無いんだけど地面にはしっかり雪が残っていたんだ。寒いし、なかなか進まないし、ホントに辛かったんですよ。アイゼンもピッケルも無かったから、今思い出しても大ピンチだったよ。はたして生きて塩山に降りられるかなんてことまで考えたんだ。

 やっとのことで千曲川の水源を過ぎて雪の斜面のジグザグ道をズポズポ重い足取り、気力だけであるいて、どうにか奥秩父主脈稜線に出たんだけど、そこでちょっと気が緩んだか、めまいがして、何がなんだか分からなくなって、

バタッ て倒れてしまった。

雪の上にへたり込んだ。足はまだいけるが心拍数が多く、体がもはや言うことを聞かん。あかん・・・そしてそのまま一時間が経過したんだ。通りかかった登山者が「おい、大丈夫か」と言ってくれ、荷物を持ってもらってやっとのことで起き上がり、頂上へ向かったんだ。ザレ場の登りがきつかったんですよ。

 青息吐息で頂上に来た割には景色なんか良く覚えていてさ、鳳凰、甲斐駒、金峰、八ヶ岳、北ア、浅間……まあそれだけ瀬戸際で印象が強かったんだね、雪の中をやっとの思いで下って、甲武信小屋に着いた。フラフラ。

本当にもうダメだ。

小屋番からも無計画無装備で登ってきたことについてお叱りを受けましたよ。布団に一時間ほど横になって落ち着いてからあたりを見回してさ、小屋の前は積雪一メートルで、道標が埋まってるのよ。びっくりしたです。

 山小屋に泊まるのは初めてで緊張したけど登山者の方と談笑して面白かったです。そして夜が明けたけど全然疲れが取れてない。西沢渓谷への下りは死を覚悟した。まあ朝食をご馳走になった富士宮市から来たY氏一行と一緒に下ることにしたけど、基本的には自力で下りなきゃいけないから正念場でしたよ。下る前、体よ、もってくれと祈りをこめて飲んだデカビタCの味が忘れられない。

 小屋の外に出ると雪が舞っていた。五月なのに。下では桜はとっくに散っているのに。降りしきる雪の中、積雪一メートルの上を木賊山に登ったけど死ぬかと思った。すぐに戸渡尾根の分岐に着き、ここからものすごい急下降がはじまったんですよ。雪が凍ってアイスバーンになっていて、5回もすっ転んで、つらくて涙が出た。

 地獄のような下りを続けるうちに雪が分厚いショートケーキみたいだったのがチョコレートケーキに粉砂糖をふりかけたぐらいになったんだけどこんどは雪解けのどろどろ道でさあ、なんかいも尻餅ついて、ズボンの尻はドロドロ。

 鉱山の跡を見て、沢の音が聞こえてきた時は本当に嬉しかった。そしてしばらく歩くとヌク沢にたどり着いてこれで危ないところから抜け出せた。助かったと心底思いましたよ。そのあと鉱山レールの上を歩いて西沢渓谷に降りて、Y氏一行の車で山梨市まで乗せていただいて立川行きのいつもの青い列車に乗ったとき、私はまだ生きているんだ、と思いましたよ。でもこれで登山やめようと思うどころか登山靴やガスコンロ買って、ますます深みにはまって行ったんです。

8 筑波山へ

登山記録に戻る。

ホームに戻る。