山紹介及び最も楽な登り方、
南アルプス南部の主峰。標高こそ荒川岳に一歩ゆずるものの、その天空にズイッと突き出た姿は圧巻。頂上部はカール状地形を有しています。がそのような個性を持っていながら、ベースは森の深い、谷の深い、あくまで南アルプス南部なのでとっつきにくい山のように思われています。最も楽な登り方は、椹島からのピストン。難易度4。百名山ガイドやや南アルプスガイドでは、悪沢岳とセットで2泊3日または3泊4日で登るコースが主流だが、単独でも十分楽しめる。
登山記録 2003年7月28・29日 (日・月) 費用発生 25,000円
106小田原・・・235静岡543=900畑薙駐車場930=1035椹島1104−1210標高1600m地点1217−1317樺段1325−1448昼食地点1500−1529赤石小屋(泊)
514赤石小屋−544富士見平−620北沢源頭627−720赤石コル−738赤石岳753−805赤石コル−844北沢源頭850−926富士見平−948赤石小屋1003−1103樺段−1214椹島1330=1430畑薙ダム1508=1830静岡1849・・・富士・・・熱海・・・小田原2105・・・多摩センター2225
深夜1時、私は小田原駅のホームに並んでいた。目指す列車は1時6分発の夜行快速列車「ムーンライトながら」号である。この列車には20回以上乗っているが、いまは18きっぷのシーズンなので座れないに決っている。しかも今年の夏からはいわゆる「救済臨」の増発が全車指定席化されてしまい、指定券を入手できなかったひとは定期「ながら」に回るものと思われる。ほどなく鵜飼舟をヘッドマークにあしらった夜行快速「ながら」が入線してきた。案の定席にありつく事は出来ず、しょんぼりと3号車のデッキに座りこむ。
本でも読みながらじっと静岡駅を待つ。けっきょく梅雨明けを待たぬまま、夜行列車に乗って南アルプスへ出かけてしまう。連日の仕事疲れで、お疲れモードなのではあるが、この道楽は手放せない。ひとには意識しているしていないを問わず、自分のイメージというのを持っていて、他人からどう見られているか、どう見られたいかを思っている側面がある。自分は「自称山男」を喧伝して、スポーツマンらしく見せようとしているのだろうか、などと一人夜行列車のデッキで考える。そう言えばつい数日前にかいしゃで仕事上の雑談をしていたときに、ミスターOに「やっぱ(あなたは)エロ大王だよ」などと言われたのだが。
熱海を過ぎて、丹那トンネルを抜けて三島に停車。終電代わりに利用する客が数人乗るが、すぐ三島や富士で降りる。列車は夜の駿河路を走り、静岡に停車。ここで畑薙ダム行きの始発バスを3時間も待たねばならぬ。前回、悪沢岳ツアーのときは駅構内に新聞紙を敷いて寝るという大胆な手を使ったのだが、きょうは土曜の夜なのでかかる不用心な手は使いたくないと思い、私は静岡駅北口を出て、事前にネットで調べてあったマンガ喫茶へ向かった。
ビルの四階にそのマンガ喫茶はあり、若い店員がひとり店番をしており、店内のソファでは数人の客が寝そべっていた。入店と同時に現在の時刻を記したレシートを渡される。そのあとソファに腰掛け、ウーロン茶を飲みながらヤクザ漫画を読みながらじっと待つ。眠らなかったのは寝過ごしを警戒したためである。午前5時過ぎ、空が白み始め、精算をすませて1000円ほど支払い、静岡駅に向かった。ほどなく5時43分発の畑薙第1ダム行きバスが現れた。昨日の仕事がはねてから本当に一睡もしていないので足元がふらつく。こんな状況で山に登れるのだろうか。
静岡鉄道バスでは荷物が10kgを超えると小児運賃相当額を徴収されるので私は昨夜家を出るときにザックをヘルスメーターに乗せて重量を8kg以下であることを確認し、みごと女車掌の計量をパスした。そのあとバスは発車し、女車掌が紙を二枚ずつ配って行く。ひとつは登山届、もうひとつは静岡県の遭難防止チラシ。遭難して動けなくなって救助隊とヘリが出ると250万かかりますよの一文が。脅しである。
そのあとは私は眠っていたので井川までは何も覚えていない。井川からは奥大井の峡谷沿いの険路となる。また一眠りして、ほどなく東海フォレスト・リムジンバスの接続点についた。ダム手前の駐車場がリムジンの発着場になっている。マイカーの客はここに駐車してリムジンに乗りかえる寸法になっている。3000円を払って山小屋の割引券を貰う。ほどなくリムジンバスに乗換え、畑薙第1ダムの上を渡り、沼平からダートのボコボコ道となる。畑薙大吊橋を瞥見して、バスはダート道を猛然と進んで行く。乗り心地は良いとは言えないが、椹島まで運んでいただけるのでありがたいと言う他ない。
橋を渡って右岸を進み、赤石ダムからトンネルに入り、聖岳登山口で一人客を下ろし、バスはガガガガと走り、赤石岳・千枚小屋方面の降り口に着いた。ここで降りた方が早いのだが、私は終点の椹島ロッヂまで行き、朝食・トイレをすませて、十一時過ぎに長い登りをはじめた。椹島ロッヂ奥の山道をちょっとあがって林道の分岐に出て、ほどなく鉄階段から赤石岳方面への登山道へ入って行く。
しばらくは山肌をジグザグを切りながら高度を稼いで行く、よくあるパターンの道である。寝不足で体調はよろしくないので、ゆっくり目のペースで歩くことを心がけた。そのあと道は南アルプス特有のうっそうとした樹林帯の登り道となった。2年前の蕨段ルートより勾配はきついが、その分どんどん高度を稼いで行く。高度計の数値が面白いように上がって行く。歩き出して1時間あまり、高度1600を越えたので一休みする。きょうは晴れ間がのぞき、木漏れ日が多少気になる。
それからも延々と長い上り坂は続くが、いったん広い林道あとを少し歩き、鉄製の桟道でまた山へ入り、ちょっと高度を上げてまた林道あとを横切る。考え事をしながらのぼりつめて行き、いつのまにか標高2000を越えて、樺段に到着。コースタイム3時間の所を2時間10分程度なので好調である、が、オーバーペースかもしれない。ウイダーインゼリーをひとつ吸っておく。きょうは日曜なので、団体の下山者と多くすれちがう。
樺段からは登りが若干緩くなり、尾根どおしの勾配のないところや若干下りの箇所もあって変化があった。がそろそろ寝不足のつけが出てきたのか、足が前に出なくなった。樺段から1時間くらいで標高2300を越えたが、そこからの登りがかなり急で難儀した。しかも道の様相が岩や木の根混じりで、自分の歩幅で進ませてくれない分疲労は募る。ときおり丸太階段で高度を稼ぐ箇所もあり、フウフウいいながら高度2400にたどりついた。大岩のたもとでコンビニ弁当の昼食。他の食料と一緒に入った袋には箸が入っていない。おのれオダキューOX、しかたがないので手づかみで飯もおかずも口の中に入れる。
きょうの宿泊地は赤石小屋である。そこの高度は2500mなので、高度計の数字が間違っていなければ、あと100稼げば終了だという目算となる。いまやヤマミックス公式飲料と化したアラブ首長国連邦の水「マサフィー」を飲んでひといきついて、午後3時、登りを再開する。幸いそこからは苦しいのぼりはあまりなく、稜線の左側を巻くように進んで行き、標高2500を越えるやいなや赤石小屋の建物が視界に入った。ヤレヤレと小屋番に宿泊を申し込む。指定されたスペースは二階のC3。寝具はシュラフと毛布のみで、枕はない。
五時半からの夕食は鮭のフライとけんちん汁であった。食後、小屋前のテラスで赤石岳を見ながら睡眠薬のハイリキレモンをカキピーで中和しながら流しこむ。隣のテーブルでは中年の登山者ふたりが将棋をさしている。そのあと二階のC3で横になる。やはり枕が違うせいか、何回も目が覚めたが、四時過ぎまで断続的に眠れた。山小屋の朝は早いがここは千枚まで行く人が多いせいか四時過ぎには皆がバタバタし出す。私は五時からの朝食を済ませたあと身支度を整え、着替えなどの不要な荷物を小屋に預けて荷物を軽くし、五時十四分、アタックに出た。
まずは眼前のピーク、富士見平へ取り付く。三十分ばかりゆるい登り道を進み130mほど高度を稼ぐと案外あっさり富士見平の道標についた。ここから5分ほど下って北沢へのトラバースに入る。西側の山腹につけられた歩きづらい道を淡々と進み、何ヶ所か桟道を渡って、小さいアップダウンを繰返す。木の根や岩の障害物が多く、高度を稼がせてくれない割りに疲れる。ほどなく樹林帯を抜けて、沢音が聞こえ、小さい枝沢を2回渡って、北沢源頭に到着。ここで一休み。
そのあとは打って変わって高度をガンガン稼ぐガチンコ勝負となる。ハイマツ帯の中を進んでいって、つづら折りの登りとなる。当方もこうなってきたら意地である。踏ん張りどころの登りをエイエイと登って行く。ほどなくかたわらの流れは尽き、カールの上部を稜線に向かい一歩一歩進んで行く。槍ヶ岳の槍沢ルートに似ているが、こちらの方がやや歩きづらい。道はガラガラで、ところどころハイマツや岩につかまって高度を上げて行く。あいにくきょうはガスがかかっており、展望は利かない。
奮起して どうか笑って 赤石岳
そうして、標高2950地点まであがったところで稜線(赤石コル)に出た。風が強いのでザックは背面ガードとして背負ったまま頂上をピストンする。稜線のゆるい登りだが、空気が薄いので法案に反対する野党議員のように牛歩戦術でのろのろと前へ進む。やがて登りがちょっとしんどくなり、当方もあとちょっとで頂上だと己をはげまし、ザレ気味の稜線を進んで行く。このあたりまでくるとハイマツも姿を消し、わずかな草やコケが見られる程度となる。集中力を切らさぬよう歩いたためか、あんがいあっさり頂上の標柱が見えた。展望は得られなかったが、高校生以来の念願であった赤石岳頂上の標柱にタッチする。小屋を出てから2時間24分が経過していた。反対側の百間洞方面から数名の中年男女のグループが頂上に到着し、「やった」「ありがとう」という歓喜の声が上がる。誰でも辿りつける場所ではないだけに、その感動はひとしおなのであろう。
登頂のポーズ、決めっ!15分ほど頂上で一休みして、退散する。感動に浸りながら稜線を下り、尾根上を進んで赤石コル。さっさと下りにかかり、ガラガラの歩きづらい下りを慎重に進む。まだ富士見平の登り返しがあるので、それを考慮して体力を残しておく。しずしずと下って、登山者とのすれ違いでわきへよける時ではちゃっかり身体を休め、やがて沢の音が聞こえ出し、北沢源頭に戻りついた。ここで切り替えの意味も含め一休み。ウイダーインゼリーを二つ吸っておく。
トラバース道や桟道では考え事をしながら、あまり時計を見ないようにして歩き、桟道を何回か過ぎて尾根上に戻ったとわかり、そこから数分間の登り返しに耐えて富士見平。ここまでくればあとは下るだけである。樹林帯の中を淡々と下り、一・二回ジグザグをきって、あとはトラバース気味になって、ほどなく小屋に戻りついた。荷物を回収し、小屋前のテラスでおにぎりの行動食。時刻は午前10時。椹島まではコースタイム三時間半、午後2時の終バスには間に合いそうだ。
十時三分ころ小屋をあとにした。はじめのゆるい下りは淡々と進んで、大岩のあとからちょっときつい急坂となる。2300まで高度を下げたあとは尾根上の何でもない下りとなる。こういうゆるい下りは得意であるためつい力が入ってしまい、1時間で樺段まで下った。こうなってくると1時までに下ってシャワーを浴びたいという雑念が入ってくる。一気に山道をダダダダと下り、林道を横切り、鉄の桟道を下り、また山道をダダダダと下る。足が痛くなってきたがここは踏ん張りどころなのでかまわず前進する。1580、1480とだんだん高度がさがってゆく。1300あたりで道は山肌のジグザグとなり、当方もラストスパートをかける。ほどなく眼下に大井川の河原、そのあと林道が見え、そして40段の鉄階段を下りきって、林道に出た。
2年前と同じように椹島ロッヂへの下り道を進み、息をはずませながらゴールの椹島ロッヂに12時14分に到着。小屋から2時間11分のノンストップであった。椹島ロッヂ売店でシャワーと帰りのバスを予約する。シャワーを浴びて、さっぱりとして帰りのバスを待つ。夏でも椹島の木々の間を吹きぬける風は涼しい。13時半のバスで椹島をあとにし、悪路の林道をマイクロバスで1時間歩き、畑薙ダムのバス停に到着。マイカー利用者が下流の駐車場へ行ったせいか、ダムサイトたもとの売店は閉まっていた。静岡行きのバスでは眠りこけ、気がついたら横沢であった。そのあとバスは安倍川流域へ入って行く。茶畑の点在する集落を通り、牛妻坂下を過ぎると静岡は近い。