2000年8月6・7日(日・月) 費用発生:28,500円
029八王子・・・348辰野453・・・641伊那大島645=752塩川ー840尾根取付ー1050鳥倉林道分岐ー1112三伏峠1140−1253本谷山1305−1500塩見小屋(泊)
510塩見小屋ー605塩見岳620−700塩見小屋710−828本谷山843−935三伏峠955−1006鳥倉林道分岐ー1140尾根取付ー1215塩川1340=1504伊那大島・・・1740岡谷・・・上諏訪・・・2240八王子
南アルプスは神秘の世界。見渡す限り山、またさらに山。標高は3000mを越え、まさに雲上の天上界。さて、間ノ岳からみた塩見岳が案外近くに見えたのでその姿に触発されたのか、塩見岳をやろうと決意した。だが塩見は北岳間ノ岳と違い、南アルプスのど真ん中、本来なら山なれた人のみが行くところのはず。小生のような下手の横好き登山者が行っていいものなのだろうか。考えるも北部の山々をあらかた登っているので塩見への挑戦権はあると判断し、荷物をまとめにかかる。
さて休み前の土曜日、登山用リュックを背負って会社のある八王子に向かい、出勤前に八王子駅のコインロッカーに登山用リュックを放りこむ。日中は机に向かい、夕刻職場の先達の方に「あしたから三日間夏休みを取らせていただきますので宜しくお願い致します、休み中の連絡先は・・・山の中ですので携帯は通じません。」と挨拶する。そして午後10時仕事がはねた後、まず駅近くのラーメン屋で腹ごしらえをし、次にコンビニで食料の調達。そうこうしているうちに急行アルプスの発車時刻が迫ってきた。コインロッカーに入れておいた荷物を出し、ワイシャツにネクタイ姿のまま、八王子の中央線下りホームへ向かう。
0時29分、「急行 アルプス」と書かれただけの何の変哲もないヘッドマークをつけた列車が八王子駅のホームに滑り込んできた。もっとも車両はあずさと共通運用なので特急型車両である。きょうは臨時が二本出ているので座ることが出来、甲府からは横になってしばしまどろみ、うまい具合に上諏訪で目が覚めた。岡谷からは中央本線のいわゆる「大八曲り」の区間に入る。しばらく走って3時48分、辰野着。飯田線の車内でも眠りこけ、気がつくと伊那大島の手前の上片桐であった。大急ぎで朝食の弁当を食べ、ほどなく列車は伊那大島の街に入った。
駅前には塩川行きのバスが2台停まっていた。いかにも地方バスといった年季のはいった車両である。学生の車掌が切符を売りに来る。時刻表では塩川までのバス運賃1450円だが、2180円を請求される。おそらく荷物料として小児運賃相当額を徴収されているのだろう。恐るべし伊那バス。結果的にあの甲府広河原間より高い料金を払う破目になってしまうとは。ひとまわり小さいディパックで来れば良かったかなとも思ったが何しろ相手は天下の南アルプス、そのど真ん中の塩見とあっては大荷物を持たないわけにはいかない。車内は登山客で満員であったが、広河原行きのバスとは客層が違う。ワンゲル部系の学生や、いかにも山男といった感じのベテラン登山者が多い。当方はいまだにワイシャツネクタイ姿のままである。とりあえずネクタイを外し、靴を登山靴に履き替える。
目が覚めるとボロバスは塩川へのダートの林道を自転車並みの速度で、巨体を左右にゆすりながら懸命に登っていた。エンジンのうなりも車体の揺れも尋常ではない。そんな状態がしばらく続いた後、終点の塩川に到着した。きょうは塩見小屋まで行くつもりなのでさっさと歩みを進める。まずは塩川ぞいの渓谷道である。案外に水量の多い塩川を木の橋で渡り、堰堤の横を通る。左岸の登り道をしばらくすすみ、またも対岸へスリルのある木の橋で渡り、しばらく樹林帯を進むとまた河原に下り、木の橋で対岸へ渡る。そこからしばらくは河原を高巻く道であるが、また河原に近付き支流の沢を渡る。丸太が一本渡してあるがバランスを崩しそうなので流れをじかに渡る。
そこからは尾根に取り付き、まずは急なのぼり道、取り付きの部分は木の根や岩にすがって登るサディスチックな登りである。そのしんどい登りを過ぎると、だらだらとした普通の登りとなる。南アルプスならではの苔むす原生林の斜面のどこまでも続くぞと言わんばかりの登りである。ここで本気を出してもいけないので自重し、だらだらとした登りを怪獣映画の怪獣のようにズシーン、ズシーンといったペースで一歩一歩進んで行く。高度計を見ながら進んで行くしかない。標高2000mを過ぎてしばらくすると休むのに絶好の倒木の株があったので、それにこしかけお茶を飲む。
そこからもしんどい登りがだらだらえんえんと続く。登りそのものは奥多摩大菩薩あたりと大差がないのだがいつ終わるとも知れぬジグザグである。ようやく鳥倉林道との分岐に着く。マイカー利用の場合、鳥倉から来た方が有利らしい。そこからひとしきり登り、尾根の北側を巻き気味に進むと、ひょっこり三伏峠小屋に到着した。ここで昼食にする。まだまだ先は長い。そこからは尾根上をすこし登ってからどんどん下る。眼前の本谷山がどんどん高くなって行く。本谷山の登りはお花畑のながめは良いが案外つらく感じた。三伏峠への長いのぼりで体力をかなり使っているらしい。青息吐息で本谷山の頂上に着いた。そこからは稜線上をだらだらと下り、権右衛門山のトラバースにかかろうとする所で、
バババババーっと雨が落ちてきた。遠くで雷の音がする。カッパをはおり淡々と歩く。道は泥濘と化し、カフェオレのような泥水がながれている。滑らぬよう慎重に歩く。なおも土砂降りは続き全身にシャワーを浴びる破目になった。ほどなく斜面をジグザグに登り、っしばらくすると尾根上に出て塩見新道と合流した。ここで雨がやみ、再び日が射してきた。
塩見岳 かすみと山と 雨しずく
稜線からの眺めは四方とも山々山である。権右衛門山や三伏峠方面が良く見える。そこからハイマツの斜面を10分ほど登ると、塩見小屋の前に出た。ここの小屋は昨年から予約制をになったとの事で、予約していないと別棟のテント屋根の小屋に収容される。鳥倉林道ができて入りやすくなったため、塩見に登る登山者が激増しているという。2食付きで7500円。ここから眺める塩見岳は圧巻である。明日あれをのぼらねばならぬのかと思うと気が滅入る。塩見から間ノ岳の方になだらかな稜線が延びている。
夕食は4時半からで、メニューはごはん、味噌汁、きのこの小鉢、コロッケであった。さて、テント屋根の別棟であるが、6畳のそこに収容されたのは9人、布団の上に寝袋を乗せ、その上に毛布をかけて横になる。関西から来た人が多い。いろいろ山の話などした後、眠りにつく。疲れているせいか、そこそこ眠れた。
山小屋の朝は早い。朝4時半の朝食はごはんと味噌汁と卵焼きと梅干2個と切り昆布であった。そのあとトイレに入る。昨夜のうちに済ますことが出来なかったのはワンチャンスしかないからである。なぜかというと、ここのトイレは環境保護のため、男性の小便以外は「便袋」を買ってその中にするというシステムになっている。まずトイレの順番を待って、オマルが一つだけの独房に入り、その「オマル」に便袋を便座カバーのようにあてがう。その後便袋の中にする。ちなみに便袋は宿泊者は1袋サービスされるが、2袋以上使用する場合は別途購入せねばならない。ことが終わると便袋をオマルから取り外し、口を縛ってトイレの外の「便箱」に捨てる。排泄物はすべてヘリで降ろして処分しているとのこと。
さて小屋に荷物を預け、空身で塩見岳へ挑む。ひとしきりハイマツの斜面を登ったあと、天狗岩の大岩を右へ巻き気味に登って行き、天狗岩を越える。そこから鞍部まですこし下ると、眼前に巨大な岩の城砦が現れる。黄色いペンキのコースサインが最も安全なルートを示しているが、ここの登りは緊張した。八ヶ岳や甲斐駒を想起させる。岩の城砦の中を三点支持により高度を上げて行く。その登りたるやスリル満点で、足がすくみそうになる。ホールド、ステップをくりかえしようやく危ない箇所をきりぬけると稜線に出て、漆黒のザレた斜面をひと登りすると塩見岳西峰の頂上である。ここから東峰まではすぐである。稜線をすこし歩き最後の数メートルを登ると塩見の頂上についた。
南アルプスのど真ん中だけあって展望は最高。北は稜線が延々と伸び、間ノ岳がその大きい図体をさらしている。間ノ岳のわきに北岳が、俺も!という感じで割り込んできている。その左には仙丈がたおやかな姿を見せ、さらに奥には甲斐駒も見える。その雲海の奥には八ヶ岳も。西側は三伏峠・本谷山の向こうに伊那盆地をはさんで中央アルプスの木曽駒・空木の堂々たる稜線。三伏峠からは南に稜線が続いている。しかしなんといっても南側、谷をへだてて対面に悪沢岳がデーンとそびえている。次はあれにのぼってみたいと思わせる山容である。そして南東のかなたの空に富士山がうっすらと、まるで別の惑星のように浮かんでいる。
塩見岳から悪沢岳を望む
登頂のポーズ、決めっ!さてあとは塩川発13時40分のバスに間に合うべく帰るのみ、岩稜帯の下りは焦らず慎重に下って行く。鞍部までおりつき、天狗岩の登り返しに閉口し、すこし下って塩見小屋にもどりついた。荷物を回収して、早々ともどりにかかる。稜線をひとしきり下って、塩見新道を分けて樹林帯の斜面をバーンと下ってトラバース道を行き、昨日の雨で泥濘と化した道を過ぎ、本谷山へだらだらしたのぼりを耐える。本谷山で塩見を眺めながら荷物処分を兼ねて2度目の朝食とする。そこからお花畑を鞍部へ向けてぐうんと下り、そこから三伏峠へ向けてかるく登り返す。
三伏峠には9時半過ぎに到着。ここまでくればバスに間に合う確信が持てる。一憩したのち、塩川へのくだりにかかる。余力さえあればかかる何の変哲もない下りなどお茶の子サイサイである。考え事をしながらたんたん、たんたんと下ってゆき、一時間半も下ると下りが急になり、そこだけ気をつけてすぎると沢の音が徐々に大きくなり、河原歩きに戻った。そこからは沢沿いの気持ち良い歩きで、木の橋を3回渡ると塩川である。バスの発車まで間があったので沢沿いで着替えて昼食。靴を脱いで足を冷たい沢水にさらすと心地よい。
伊那大島までは1時間半バスに揺られた。当然私は眠っていた。